■ 知恵市場 ☆ 2000.6.10 ■ ■ エッセンス ☆ 合計発行部数 789部 ■ ■ ES1054 ☆ (B-mail=191:Nifty=598) ■ ■ ¥200 ☆ http://chieichiba.net/ ■ ●知恵市場エッセンス「すでにある未来」 --------------------------------------------------------contents ■■■Part1==========================すでにある「未来」■■■ ■■■Part2========================等身大の環境問題解決■■■ ■■■Part3================================未来への責任■■■ ---------------------------------------------------------------- このエッセンスは、知恵市場DJ paco/渡辺パコのオリジナル書き下ろ しです。 1月以来、環境問題、グリーンエコノミー、あるいは持続可能な社会について、検 討を続けてきました。今回はその、ひとつの締めくくりであり、次への出発点で す。 ■■■Part1==========================すでにある「未来」■■■ アメリカのワールドウォッチ研究所の所長、レスター・ブラウンが来日し、講演 を行いました。ワールドウォッチ研究所は毎年、「地球白書(State of the World)*」を出版し、地球環境問題や人口、食糧問題に多くの示唆を与えていま す。そのレスター・ブラウンが示す、ひとつの未来を紹介します。エネルギーの 未来です。 彼は、近未来のエネルギーとして、風力と水素を使ったエネルギーサイクルを提 唱しています。そのしくみを先に説明します。基本的にとてもシンプルです。 (1)風力によって風車を回し、電力を起こす (2)その電力で水を電気分解し、水素と酸素を取り出す。 (3)水素をエネルギー媒体として貯蓄、移動し、 (4)必要なところで水素を大気中の酸素と反応させて電力を取り出す というものです。原理はとても簡単ですね。中学校の理科で実験したものです。 このエネルギーサイクルの良さは、以下のような点にあります。 まず、汚染物質を出さないこと。使っている元素が水(H2O)とそれを分解した水 素、酸素だけ。水素と酸素を反応させればエネルギーが取り出せて、水が生成さ れる。クリーン。水を電気エネルギーで分解するときは、水素と酸素ができるだ けで、クリーン。 次に、エネルギーがサイクルとして循環すること。水は地上にほぼ無限にあるし、 当然水素も酸素も、絶対量に不足がない。しかもこのエネルギー利用は、たとえ ば酸素と水素からエネルギーをとりだして水が残り、おしまいではなく、循環し ています。 3つ目。この循環を可能にしているのが、風力という自然エネルギーであり、それ 自体クリーンであること。風力のもとは太陽のエネルギーで、太陽の熱が大気に 対流を起こしている、その対流エネルギーを電力に変えているわけです。 つまり、太陽や地上温度などの環境が、ほぼ現在の水準にある限り、このサイク ルは利用可能で、しかも環境を変化させにくいのです。つまり、持続可能なエネ ルギー利用ができるモデルであるということです。 では、実際にこのエネルギーサイクルは可能なのでしょうか。 もちろん「十分に可能」という見通しがあるからこそのレスター・ブラウンの主 張になるわけですが、事実を確認してみます。 まず風力発電。風力発電のコストは、ここ10年で劇的にダウンし、今やあらゆる 発電方法の中でもっとも安い方法のひとつになってきました。米国では1キロワッ トあたりの風力発電コストが18セントから5セントにまで下がり(最近の8年間に)、 日本でも1キロワットあたり11円程度で発電が可能になっています。すでに北海道 苫小牧周辺や青森県六ヶ所村では風力発電が商業ベースで行われており、北海道 電力や東北電力に発電した電力を販売しています。 世界に目を向ければ、風力発電王国はドイツで、21億キロワット時(98年)の発 電実績があり、全発電量に対するシェアは10%に迫ります。風力発電に最初に力 を入れた北欧各国、スペイン、アメリカなど、今や風力発電は主力の発電システ ムのひとつになろうとしているのです。 こうしてつくられた電力はそのまま利用してもいいのですが、電力はそのままで は貯蔵がきかないため、これを水の電気分解によって水素に変え、気体として保 存し、輸送します。水素を安全に貯蔵する技術は現在研究が進んでいます。 一方水素からエネルギーを取り出す方法ですが、単純に酸素と反応させると、水 素爆発になり、危険です。そこで、水素と大気中の酸素を反応させて電気エネル ギーを取り出す装置が重要で、これが燃料電池です。電池といっても使ってしま うとなくなるふつうの電池ではなく、水素を供給しさえすれば、永遠に発電を続 ける、水素発電装置です。 現在燃料電池は、次世代自動車の本命技術と見られており、カナダのバラード社 や自動車メーカーを中心に、数年から10年後の本格実用化に向けてめどが立って きました。 以上、ていねいに見てきましたが、風力←→水素のエネルギーサイクルは、既に 実用化一歩手前のところまで来ており、それは決して「いつか来る未来」ではな く、数年後に訪れる可能性がある未来なのです。 ■■■Part2========================等身大の環境問題解決■■■ さて環境問題についての話をするとき、日本人の反応は二つに分かれます。 ●今自分たちは、無駄な生活をしすぎている。このままではだめだ。先進国は我 慢し、かつての生活に戻らなければならない。 ○日本は技術力があり、目的がはっきりすれば「一丸」となってがんばる。公害 問題を解決してきた実績もあり、環境問題も解決できるだろう。 あなたはどっちですか? このふたつはまったく対立項の意見ですが、共通する特徴があります。どちらも 「当事者意識がない」ということです。前者は「戻るべきだ」といいながら、自 分は戻る生活をしていません。またいつからどのようなステップで時計の針を逆 転させるかも、またそれが可能かも、考慮していない。せいぜい「誰かがそのた めのロードマップをつくるべきだ」とか、「政府が強制的にやるべきだ」と、 「主語」を自分以外の人に持っていってしまう。 後者も同じで、自分は何もしないうちに、なんとなく解決している。みんながちょっ とずつがんばればいい、という発想。お金の感覚で言えば、毎日1円か、せいぜい 10円ぐらいそっとお金を取っていっても、お財布が痛んだ感じがしないだろう、 きっとそんな感じで、なんとなく解決に向かっているに違いない、という感じで す。少なくとも自分で財布を開いてコストを払うとか、体を動かすという意識は 薄い。 実は、日本では楽観論も悲観論も、同じ根っこの裏表なのです。 ではレスター・ブラウンの主張はどうでしょう? 少なくとも、エネルギー循環については、彼は「我慢しろ」という文脈では語っ ていません。もちろんムダはなくす必要はあるにしても、たとえば東京のような 都市でエアコンを使うなとか、すでにクルマの利便性を知った先進国民にクルマ に乗るなとは言っていない。そこまで「やせ我慢」しなくても、未来は開けると 語りかけます。 では楽観主義者なのかというと、もちろんNO。そのための条件や手法を具体的に いくつも提示しています。 前述のエネルギーサイクルの例で行きましょう。たとえば北欧やドイツで現在風 力発電が商業的に成り立っているのは、いくつもの施策が打たれているからです。 たとえばスウェーデンでは、「スウェーデン自然保護協会」が企業に「エコラベ ル」を認定するという制度があり、このエコラベルの有無が消費者の行動に影響 を与える社会である点が、日本と違います。つまりエコラベルの認定を受けてい る企業のサービスを優先的に購入するという、市民の意識(エコ購入)があり、 そのための指標としてエコラベルがある。たとえば鉄道会社は、クルマや航空機 との優位性を獲得するために、エコラベルの認証をとる。鉄道を動かす電力の何 割かを風力や太陽光など自然エネルギーで充当することが、エコラベル取得の条 件になるのです。しかもエコラベルを維持するための条件は年々厳しくなってい くので、自然エネルギーの需要はさらに伸びるしくみになっています。 このような良循環が起こるベースになっているのが、エコラベルによって保障さ れた「グリーン購入」「環境によい消費行動」という記号性とそこに価値を見い だす市民一人一人の意識です。 同様に、エコファンドによって環境によい行動をとる企業に資金が集まるしくみ があります。これによって、風力発電を行う企業は低コストで資金調達ができ、 エコラベル取得や維持をねらう企業からの優先的な購入を期待できるのです。 ここで重要なことは、エコラベルやグリーン購入、エコファンド、そして政府に よる税制優遇措置など、いくつかの手法を組み合わせ、それが連携することで、 個人の消費行動が環境を改善する方向に動くようにしくみづくりをしているとい う点です。 「技術と解決の見通しができたのなら、それでいいや、よかった(^_^;)」ではな い。かといって「どうせ簡単には解決しない」というあきらめでもない。社会全 体を考えられる限りよい方向に持っていこうという意思と行動があるといえるで しょう。 もちろん上記の風力←→水素のエネルギー循環が実際に可能になるためには、い くつもの問題をクリアする必要があります。まず莫大な投資。特に燃料電池と、 水素の安全で低コスト輸送、水素販売網の整備は多くのコストが必要です。その 資金調達にはエコファンドや、こういった将来への投資に積極的な企業からのエ コ購入が大きな力になるはずです。 しかし、こういった流れをつくる、つまり時代を動かす力は、決して「30年前に 戻る」ことでもなく、「知らないうちに財布から10円ずつとられる」ことでもな い、意志を持った行動と、知恵のあるしくみづくりにかかっています。 こういったしくみづくりに成功し、市民が自分たちの力で世界の進む向きを変え ることができれば、速ければ僕らのこどもが成人するより前に、僕らの孫ができ るより前に、社会は大きく変化しているはずです。 少しだけ、暦を先に進めてみましょう。たとえば2020年ごろ(あなたは何歳です か?僕は60歳だ)。泳ぎに行く海岸線や街の高台には風車と太陽電池パネルがあ る。各家庭に来ていた送電線はあらかた消えて、家の横にはエアコンの室外機ほ どの燃料電池が置かれている。ここにはガス管がつながれており、水素が供給さ れている。家で今必要な電気は、今この燃料電池でつくり、不要な電力はつくら ないので、ムダがないのだ。しかもにおいも排ガスも出ない。ノートパソコンに もガスライターのような水素カートリッジがつき、これを交換するだけで充電は 不要になる。 と、これ以上書くとバラ色の未来のように見えるのでやめておこう。 ここでひとつはっきりさせたいこと。 未来は決して、過去の中にあるのではない。 今獲得した利便性のうち、ぜひ必要なものはちゃんと確保した上で、 環境問題を解決する道は必ずある。 ということです。 もちろんこのようなエネルギー循環が可能になれば、途上国の市民が生活水準を 高めても、エネルギー面では単純な環境悪化は招かなくなります。もちろんだか らといって無制限な発展を可能にしたり浪費を許容するわけではありませんが、 少なくとも、「途上国が先進国並の生活になったら、地球は大変なことになる」 という議論の突破に、ひとつの可能性を与えてくれます。 今の環境問題が「問題」である最大のポイントは、自然から奪ったものを奪いっ ぱなしにして、次々と新しいものを奪っては、価値の低くなったものを廃棄して いることです。自然から受け取り、それをもとの形で自然に帰し、また受け取る というサイクルができれば、使っても、それは浪費とは呼ばなくなるわけです。 ■■■Part3================================未来への責任■■■ もちろん、環境問題はエネルギーだけでなく、広範囲に渡っています。化学物質 による汚染、焼き畑による森林の消失、砂漠化、水資源の枯渇。 しかもそれらは複雑に絡み合い、容易に問題の解を見つけさせてはくれないよう に見えます。しかし人間がつくりだした問題を解決する方法は、やはり人間の中 に存在しているはずです。レスター・ブラウンは、環境問題を解決する技術は、 すでに存在してると述べています。もはや僕らにとっての環境問題は、「解決で きるか?」を考える問いではなく、「誰がどうやって、実際に解決するか」とい うフェーズに来ているのです。 そのフェーズを切り開くのに一番重要なことはなんでしょうか? 技術? 金? 人材? [kafe]MLでは「教育」がキーだという話がやりとりされました。日本や欧米は意 識も高く、情報流通もあるので、市民が行動できるが、アジアやアフリカ各国は、 教育面も市民意識も、流通している情報量も、まったく事情が異なるので、行動 につながらないだろう、という意見です。 中東、中国など、じっさいに現地にいる参加者から、現地の事情をふまえた意見 を送ってもらい、とても勉強になりました。しかし、僕はあえて、この場で反論 したいと思います。 日本では、情報はいくらでも手に入れることができます。英語力も読むことなら 平均値が高いので海外からの情報もとることができるし、人材も、資金も、もち ろん技術も手にはいる。 では日本は世界の環境問題解決の先頭グループにいるのか? No! 北欧やドイツの聡明さを見れば、日本の、先を見る目の貧しさに愕然とします。 Part2で紹介したふたつの考え方 ●今自分たちは、無駄な生活をしすぎている。このままではだめだ。先進国 は我慢し、かつての生活に戻らなければならない。 ○日本は技術力があり、目的がはっきりすれば「一丸」となってがんばる。 公害問題を解決してきた実績もあり、環境問題も解決できるだろう。 いずれもが、「当事者意識、コミットメントに欠ける」と指摘しました。 もしアジアやアフリカ各国が「できるのか?」と疑問視するなら、それと同じ疑 問を「なぜ日本ではできないのか?」と問い直してみるといいと思います。 持続可能社会への突破口が開けないのは、教育水準でも情報格差でも宗教でもな い。 ----------------------------------------- 「未来にどれだけ責任を持とうとしているか」 ----------------------------------------- ここに集約されるのではないかと僕は考えています。 ネイティブインディアンは、重大な決めごとの時に、「7世代先の人々のことを考 える」と言われます。 僕たちはどうでしょうか。7世代はおろか、1世代、つまり自分の子どもがおとな になるときにどんな影響力を与えているのか、ということさえ考えずにいるので はないですか? 日本には、環境問題を解決する、あらゆるものがそろっているのに、前に進んで いないのは、未来を考え、構想し、それに基づいて今行動するという考え方がな いからです。その結果、僕らは情報統制されている国や、インターネットの恩恵 を受けられない人々の住む地域より、かえって「地球に対して罪深い」行動をと り続けているのであって、情報がなくて行動できない人々よりはるかに罪深いの です。 そしてもう一つ。未来を構想し、責任を持つことは、「自分ではない他の誰か」 や「政治家」や「どこかの有力国」が決めることではありません。あなた自身が どのような責任を、子どもの世代に対して果たすのか。 ということで結局、1月のVol.141「グリーンエコノミーへ」と同じところに帰っ てきました。 さて、ここであなたなりの責任の果たし方を、二つご紹介。 ひとつは総選挙。これまでの投票率から見ても、エッセンスの読者の半分近くは 投票に行っていないですね。毎回ですが、投票率が100%になれば政治が変わると 言われます。誰を選んでも変わらないのではなく、変えようとしていないのは、 投票に行かない人、自身です。 二つ目。環境問題について、アンテナを張ってください。僕のことを「詳しい」 と言ってくれる人もいますが、僕の知識はどこからでもてに入るものばかりです。 新聞記事、市販の本、TV番組、友人の知人の友だちの話、旅行に行った先で見聞 きしたこと。関心を持ちさえすれば、情報は自然に集まり、情報が集まれば、自 分にできること、しなければならないことが見えてきます。「みんながやらない と環境はよくならない」のではなく、「自分がやらなければ動かない」のです。 この「アンテナを張る」ための、ひとつの方法として、僕は知恵市場に「ecru (エクリュ)」という新しいMLをつくることにしました。[ecru]MLのスタートは 7月です。多くの方に、環境問題解決と持続可能な経済、社会を実現するための情 報提供と、情報交換の場です。[ecru]は無料ではありません。良質の情報と情報 交換の場をつくるため、シェアウェアとして有料で運営します。料金はまだ未定 ですが、月刊誌程度だと思ってください。 詳しくは、7月の知恵市場リニュアルのご案内の時点で、お知らせします。 なお、[ecru]では数名のスタッフを募集しています。興味のある方は、僕宛、 「[ecru]スタッフ希望」というタイトルでメールをいただければありがたいです。 なおスタッフは、原則無償のボランティアです。 【参考文献など】 *「地球白書(State of the World)」は日本語訳が出版されています。 「地球白書」レスター・ブラウン編著 ダイヤモンド社 2600円 *この5月からNHK BSでこの地球白書をテーマにした番組が始まっています(月1 回放送) *「北欧のエネルギーデモクラシー」 飯田哲也著 新評論発行 2400円 2000.6.10 知恵市場 DJ paco/渡辺パコ paco@suizockanbunko.com ======================================================================= ●エッセンスの転載については、知恵市場までお問い合わせください。 paco@suizockanbunko.com 知人(個人)へのエッセンスの紹介を目的としての転載は、1号限り、全文を送 っていただく場合に限り、特にこちらに許可を取らずに行ってかまいません。た だし登録せずに受け取った人がさらに別の人に送ることは認めません。 ---------------------------------------------------------------------- 知恵市場(ちえいちば)主宰 ● Toshi/高橋俊之 toshi@heartbeats.com paco/渡辺パコ  paco@suizockanbunko.com Surfrider/阪本啓一 surf@palmtr.com ---------------------------------------------------------------------- end of Chieichiba Essence (c)Chieichiba & Suizockanbunko inc. 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