イ タ リ ア de 育 児 考
 
  ◆フィレンツェで育児休業?!その1
  ◆フィレンツェで育児休業?!その2
  ◆番外編:フィレンツェ街角通信 X'masの季節
◆「トラットリアに行こう!」その1
◆「トラットリアに行こう!」その2

 

イタリアde育児考
 
フィレンツェで育児休業?!その1

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◆はじめまして、yuzumomoです。
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5月に長男が生まれ、来春までは育児休業中。現在は夫の仕事の都合で、フィレ
ンツェで子育てをしています。

yuzumomoとは我が家の二匹の猫、ユズ(三毛猫)とモモ(アメリカンショートヘ
ア)からとりました。これまで夫と私をなごませてくれた猫達も、今は実家で留
守番中です。

私はといえば、子どもの頃から歌舞伎や落語、文楽が好きで、自分でもお茶と長
唄を習ってきました。現代演劇というとカタイですが、お芝居も大好き。にもか
かわらず異文化に触れるのも好きなので、今も、海外にいながら日本の文化も楽
しめないかと、無理なことを考えています。

日々、成長する子どもと一緒に外国で暮らすということ、離れて見えてくる日本
のあれこれについて、気楽に考えてみたいと思います。

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◆乳児を抱えて、イタリアに
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生後3ヶ月を過ぎたばかりの長男を連れて、イタリアのフィレンツェにやってき
たのは9月のことでした。これまで旅行や出張でせいぜい数週間を過ごしたくら
いで、海外生活の経験はありません。

仕事がら、夫が数日の出張に出る可能性も大いにあります。留守中に、子供が病
気になったらどうするんだろう? そもそも日常の買物だってあやしいぞ。「そ
んな調子で暮らしていけるのか?」と、自分で自分に突っ込んでいるうちに、無
常に産後の時は流れ、イタリア行きの飛行機に乗っていました。

さて、実際に暮らしてみると、フィレンツェでの子育ては楽しいものでした!
東京にいたときよりも母乳はよく出るようになったし、深く眠れます。

今年の夏の暑さと産後の疲れで、東京では一度も散歩にでなかった私ですが、イ
タリアへ来てからは、毎日、石畳の上を出かけるのはもちろん、ローマへの一泊
旅行に、乳児連れの観劇も経験しました。

(この観劇は、夫と私の友人が劇団と関係があり、誘ってくれたものでした。
 「絶対に泣く」と、帰ろうとする私に、劇団のスタッフが総がかりで「赤ちゃ
 んが泣いてもOK!」とバルコニー席を用意してくれたのです。子どもたちで
 あふれていた幸福な劇場については、あらためて書きますね!)

本当のことをいうと、東京を離れてからのほうが、育児への不安もストレスも圧
倒的に減りました。情報量は少ないし実家のサポートもない、友達に電話して愚
痴を話すこともできません。子どもとはつねに一緒ですから、出かける場所も時
間も限られているのに、イライラすることもなくなりました。

条件は悪くなっているのに、どういうわけか、子どもが可愛い! と、日に日に
強く思うようになっているのは不思議です。なぜなんでしょう?

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◆東京での私
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今にして思えば、「東京」というよりは「東京での私」の生活に問題がありまし
た。私の仕事は書籍編集です。仕事とプライベートをきちんと分けている人(た
とえば私の夫)には信じられないでしょうが、仕事が生活にどんどん入ってきま
す。著者と親密になれるぶん、良くも悪くも、公私の境目が曖昧になってしまう
のです。

私の場合、産後2週目くらいから、仕事相手と電話で打合せをしていました。本
を一冊つくるためには、綿密なコミュニケーションが必要です。子どもが生まれ
たからといって、「では、育児休業ですので」と、休みには入れない――と、誰
に言われたわけでもないのに、自分で思っていたのです。

仕事が不安になると、連鎖反応で何もかもが心配になりました。納得のうえで育
児休業も長めに、と決めたのに「間違っていたのでは」と思ったり。努力しなく
ても、母親業になじめる人も多いのでしょう。けれど、私にとっては「仕事につ
いて考えない」ことそのものが、ストレスでした。だから、いっそ電話で打合せ
をしたほうが、気が楽になる。でも、打合せをすれば、義務も生じる――という
悪循環もあります。

イタリアに来たおかげで、「私の東京的日常」から離れることができました。そ
れだけでも、私が抱えていたストレスが、解放されたのだと思います。精神的な
ストレスに物理的な解決策――なんて安易でしょうか。でも、本当に効きますよ。
長年の不眠症がほとんど消えていると気がついたとき、自分でも信じられません
でした。

だから、私のように、日常のストレスで疲れている方には、子どもを抱えて旅行
へ出るとか、非日常の楽しみをお薦めしたいです。

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◆一筋縄ではなかった、イタリア行き
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今は、のんびりとフィレンツェで暮らしていますが、「日本に残ろうか」と考え
たこともありました。

職場の研修で、夫のフィレンツェ行きが内定したのは去年の夏のこと。会社勤め
の私は、仕事を辞めないかぎり、一緒には行けません。「子供が生まれれば、数
ヶ月でも私も行けるのにねえ」などと話していたら、本当に妊娠してしまいまし
た。なんというタイミング!

「育児休業をイタリアで過ごせるなんて素敵だなあ」などと、何もかもが子供の
誕生を祝福してくれている気がしました。ところが、です。準備と家探しのため
にフィレンツェに出かけた夫から、「乳児を連れてくるなんて、間違っているの
かな」と、電話がかかってきました。

夫が言うには、イタリアで日本人に紹介されるたびに、
 
         「子ども連れなんてとんでもない」「非常識だ」
         「大丈夫なんですか」「責任はもてるのか」

などと、総攻撃を受けたというのです。いつもはマイペースな夫がすっかりへこ
んで国際電話をかけてきたので、びっくりしました。(ちなみに、このときに会っ
たのは男性ばかり)。

            夫:「子連れで来るというと、皆に責められるんだよ」

      私:「ええ、どうして?」

確かに私たちも心配はしています。だからこそ実際に暮らしている人たちのアド
バイスは、ぜひ欲しいと思っていました。でも、非常識な親だとばかり、頭ごな
しに反対されるなんて!

その人たちは、もちろん好意で言ってくれたんでしょう。でも、どうして「○○
の準備はしているのか?」とか「こんなトラブルが起こるかもしれないよ」と具
体的に言わないんだろう?

はっきり言ってくれれば、やめるにしても行くにしても、建設的な判断ができる
のに。漠然と、心配ばかりをあおるような言い方が「本当の親切」だとは思えま
せんでした。

ちなみに、その後知り合った、フィレンツェで子育てをしている日本の女性たち
は、全員が「日本よりも子育てしやすいですよ」と言っていました。皆、イタリ
アの男性と結婚している人たちです。この違いはどこから来るのでしょうか?

おそらく本人が楽しく子育てしていれば、その場所は「子育てしやすい」と、思
えるのでしょうね(心配してくれた人たちは、あまり子育てには関わっていない
ようでしたから)。

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◆ついに覚悟を決めた日の気持ち
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最初に「イタリアで子育てができる」とわかったとき、私はすごく嬉しかったん
です。わくわくしました。「面白そう」「良かった! 」って直感しました。

だったら、自分の直感のほうを信じて、子どものための準備は万全にして、楽し
くフィレンツェで暮らしてみよう。たとえ日本に残ったとしても、子どもが絶対
に何の病気にもかからず、事故にも遭わないという保証はないんですから。

「心配だから」と言いながら、いたずらにこちらを不安にさせる、呪いみたいな
言葉には負けないぞ!


                                                    text by yuzumomo 
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-街角通信-
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イタリアde育児考
 
フィレンツェで育児休業?!その2

◆教えてくれたのは、フィレンツェの街
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イタリアに来たら「何より、子どもが可愛い!」 と、日に日に強く思うように
なりました。

理由はいくつか考えられます。

  フィレンツェの街が美しく、暮らしやすいから。
  たまたま周りの人たちに恵まれたから。
  子どもが丈夫だから(母乳の免疫も効いてます)。
  仕事をしなくていいから。
  今はまだ新参者で、好奇心が先に立っているから。

……どれも当てはまる気もするし、十分ではない気もします。でも、「これが
理由かな?」と確信できることがあります。

フィレンツェは世界的に有名な街だから、外国人慣れしているけれど、暮らして
みると意外にこぢんまりしています。適度に都会で、手ごろな大きさです。
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                                ▼yuzumomoさんのフィレンツェ「街角通信」
                      http://www.chieichiba.net/wahaha/italia_photos.htm
                                                ▼フィレンツェの街の紹介
                        http://www.welcometoscana.com/jp/generalCj.html

とはいえ外国ですから、生活していくうえでの緊張感はもちろんある。私の場合、
働いているわけではないので、「買物でイタリア語が通じるかな」とか、「バス
を乗り継いで、子連れであそこまで行けるだろうか」「近所で見つけたトラット
リアに行きたいけれど、ベビーカーは断わられるかな」といった程度のものでは
あります。でも、産後、家にこもっていた身には、それでもちょっとドキドキし
ます。

毎日、少しずつ、経験が増えていって、街に慣れてゆく。できなかったことが、
少しずつできていく。環境と自分のあいだに関係が生まれていく。

それは子どもが成長していく過程と、わずかではあってもシンクロしている気が
します。自分自身も緊張して、ホッとして、自信がついて、ということを繰り返
しているから、子どものささやかな成長に、気づきやすくなっているのではない
でしょうか。

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◆人と街と心はつながっている
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東京は自分が生まれ育った場所で、今でも大好きです。でも、仕事が忙しくなる
につれ、いつの間にか東京で楽しく暮らすことを忘れていた気がします。

たとえば、イタリアで買物に出かけると言葉が未熟なこともあり、全身でコミュ
ニケーションをとることになります。また子どもがいると、よく話しかけられる
ので知らない人と会話しています。疲れることもあるけれど、楽しいんですよね。

東京では生協の宅配を頼んでいたし、買物は必要最低限しか近所でしませんでし
た。ご近所の方と話すなんて、ほとんどない生活です。そういえば一度だけ、家
の近くの魚屋さんに行ったら、「天ぷらを作るなら、いろいろなものが少しずつ
あったほうがいいよね」と、その場で盛り合わせてくれたのを思い出しました。

「親切な魚屋さんだな、また来よう」と思いながら、会社から帰るころには閉ま
っていて、いつしか意識しないようになっていたのです。

東京にいたころ、育児情報はあふれていたけれど、自分は街に溶け込んで楽しく
暮らせていたのかな? 忙しいから、面倒だからと理由をつけて、コミュニケー
ションをあまりとっていなかった。それが当たり前だと思っていたけど、仕事を
休んで「時間」だけができたら、自分が孤立しているような気持ちになりました。
それは、自分と地域との付き合い方にも、問題があったのかもしれない……そん
なふうに思えてきました。

今、フィレンツェで子どもと一緒に、街の人たちと話をすると、なんだか懐かし
い気持ちになるのは何故でしょう。イタリアのおおらかなコミュニケーションに
触れているうちに、しばらく使っていなかった回路が、動き出したのかもしれま
せん。そうしたら、早く東京に帰って、あの魚屋さんに行きたくてたまらなくな
りました。

私たちは、自分だけで生活しているのではなくて、街やそこで暮らす人と一緒に、
生きているんですよね。そんな当たり前のことを、忘れていました。

大事なことを思い出させてくれたフィレンツェの街にも、感謝の気持ちでいっぱ
いです!

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◆子育てするのにふさわしい環境とは?
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子育てにふさわしい環境って、あるのでしょうか?

私が相談に行った、近所の小児科のお医者さんは、こう言いました。

 「どうしても赤ちゃんを連れて行かなくてはいけないんですか? 日本は乳児
  の死亡率が世界一低い、ということは、子育てに最適な環境なんですよ」

医療従事者のこの言葉には、一瞬、大きく気持ちが揺れました。自分のエゴで子
どもを危険な目にあわせようとしているのだろうか、と思ったからです。

でも考えてみると、私は子どもを連れてジャングルに行きたいとか、背負ってロッ
ククライミングをしたいというわけではありません。別に、あえて危険を冒そう
というのではないんです。

海外ではあるけれど、日本と同じか、「注射する薬を自分で選べる」など、場合
によっては、質的に日本よりも優れた医療を持つ国で暮らしたい、と思っただけ
です。

それに日本に残ると、子どもは父親とまる1年離れて暮らすことになります。家
族にとって大切な一年を離れて暮らすほど、「日本にいること」が重要だとは、
私には思えません。よくいわれる「死亡率の低さ」は「生活の質」とイコールな
のでしょうか? 少なくとも私たち家族にとっては別な種類の話だと思いました。

一方、同じく相談に行った、私がお産をした大学病院の担当医は「イタリアなら
問題ないですよ」と、笑って言ってくれました。

 「ただし、受けられるかぎりの予防接種を受けることを勧めますね。保育園に
  通わせないなら、感染の可能性はほとんどないでしょうが、イタリアにはア
  フリカからの移民も多い。その人たちの中には、先進国では絶滅したとされ
  ている病気のキャリアもいるでしょう。思わぬところで感染しないとも限ら
  ないんです」

要は、親がどんな生活を送りたいのかによって、子どもの暮らし方も変わってく
る、というわけです(とはいえ、予防接種については調べ始めると、これまた気
になる問題が続出で、担当医のアドバイスすべてに従う、というわけにもいきま
せんでしたが)。

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◆人の背中を押せる気持ちの余裕
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さっきの問いに戻ると、「子育てにふさわしい環境」を「これがベストだ」と一
つに決めつけられないのだと思います。親が精一杯のことをして、楽しく暮らし
ていれば、子どもは自分で大きくなっていく。

誰かが何かをやろうとしている――そんなときに、「おもしろそうね。じゃあ、
私はこんな手伝いができるわ」と、背中を押してもらいたいし、そう言える人で
ありたいです。

そしてイタリアは、思っていた以上に、背中を押してくれるところでした。その
話は、また今度に。

                                                    text by yuzumomo 
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