イ タ リ ア de 育 児 考
 
  ◆フィレンツェで育児休業?!その1
  ◆フィレンツェで育児休業?!その2
  番外編:フィレンツェ街角通信 X'masの季節
◆「トラットリアに行こう!」その1
「トラットリアに行こう!」その2

イタリアde育児考
 ◆「トラットリアに行こう!」その1


■雨が上がったら、あのトラットリアに!
------------------------------------------------------------------------
フィレンツェの冬が雨期とは、住んでみるまで知りませんでした。絹糸のように
細い雨が、音も立てずに降り続く。まるで家のなかに閉じ込められたみたいです。

独身時代ならばロマンティックな空模様も、乳児と一緒の身の上では「買物に行
けない」「散歩に行けない」と、ストレスになりがち。ありあわせの食材で「な
んちゃってイタリアン」をつくるのにも、二日もたてば飽きてきます。大家さん
が庭で飼っている3匹の犬たちも、ちっとも姿を見せません。窓から鉛色の空を
見上げて、「早く晴れないかな」と願うばかり。

さて、明け方から鳥の鳴き声がする翌朝。鍵をはずし、よろい戸を開けると、
「待ってました」の快晴です!

いつもは埃っぽい空気も雨のおかげで澄みきって、綺麗な青空。こうなると、出
かける先は決まっています。熱々のパスタや丁寧に煮込んだスープがあって、き
どっていないけれど、でも「魂がこもっている」感じがする――そんなトラット
リアに行きたい!

トラットリアは大衆的な家庭料理を出す店。リストランテは、やや高級なレスト
ランと言われています。実際には、高級なトラットリアやカジュアルなリストラ
ンテもあるようですが、雰囲気としてそんな感じに分かれています。
------------------------------------------------------------------------
■勇気をくれるトラットリア、「マリオ」
------------------------------------------------------------------------
子どもが生まれる前は、仕事帰りに夫と待ち合わせて、おいしいものを食べるの
が楽しみでした。乳児連れの今は、夜のお出かけが難しい。けれど、生ハム、サ
ラミ、チーズにピカピカの野菜、そして甘い肉――と、食べ物がおいしいのが、
ここトスカーナ地方。せっかくだから、時には外でも食べてみたい。となると、
リストランテほど気取らず、気軽にランチができるトラットリアが最適なのです。

「マリオ」というトラットリアを紹介してくれたのは、エディトリアル・デザイ
ナーのミルキィ・イソベさんでした。ミルキィさんは出版関係だけでなく、ポケ
モン・カードのデザインなども手がけています。イタリアが大好きで、何度も旅
行しているミルキィさんが、

「地元の人の食欲を味わうなら、ぜひここで」

と、お薦めしてくれたお店が「マリオ」なのでした。フィレンツェは小さい町に
観光名所が集中しているので、チェントロ(町の中心部)で真っ当な食事をする
のが難しいのです。

「マリオ」は、チェントロのさらに真中にありながら、地元の人たちに半世紀も
愛されてきたとか。ガイドブックにも紹介されているので、旅行者も多いのです
が、観光地にあるような、「旅行者ずれしたレストラン」では、まったくない。
不思議な魅力のあるお店なのです。

▼「マリオ」の外観。1時を過ぎると、待つ人は外まであふれる。

ちなみに、フィレンツェ市が作成した2003年度版の『レストランガイド』の「マ
リオ」の欄には、特別な注意書きが載っていました。いわく、

「食べ終ったら、立って待っている人に席を譲ろう!」

スローフード協会の認定も受けていて、料理がおいしいのはもちろんですが、何
より嬉しいのは店の人たちの温かさ! まだイタリアでの暮らしに慣れていない
頃、「マリオ」の人たちの親切には、本当に励まされました。

  ▼スローフード協会:http://www.nt-slowfood.org/
  ▼日本スローフード協会:http://www.slowfood.gr.jp/
  ▼ニッポン東京スローフード協会:http://www.nt-slowfood.org/

メニューが読めない外国人には、丁寧にひとつずつ(全部!)、メニューを読み
上げてくれます。トスカーナの料理を大事にしているので、名前だけではわから
ないメニューもあるけれど、質問すると、どんな料理か教えてくれます。目が回
るほど忙しいのに、お店の人は決して焦りません。かといって、きどっているわ
けではない。本当にただ親切、なのです。
------------------------------------------------------------------------
■赤ちゃん連れで、マリオへGO!
------------------------------------------------------------------------
うなぎの寝床のように細長い店内には、ぎっしりとテーブルと椅子が並べてあり
ます。席に着くと、前後左右の人と、軽く体のどこかが触れるような感じ。とて
もベビーカーが入れる雰囲気ではありません。

お店の前を通り過ぎると、いつも満員でドアの外にまで人があふれています。空
いている、ということがないのです。それでも、お店の活気は私の食欲を刺激し
ます。ああ、どうにかして「マリオ」でご飯を食べたい!

▼「マリオ」店内の様子

ある日、「開店直後ならどうだろう」と12時に飛び込むと、私たちが一番目のお
客。ベビーカーも問題なく、「わあ、赤ちゃんだ!」と、店中で大歓迎してくれ
ました。

さあ、何を食べよう。

いわば町の定食屋さんなので、アンティパスト(前菜)はありません。パスタな
どのプリモ・ピアット(一番目のお皿)とセコンド・ピアット(二番目のお皿)
を選びます。その日のメニューは手書きで書かれ、厨房のガラスに貼られていま
す。

▼「マリオ」の名物スタッフたち

------------------------------------------------------------------------
■シンプルで元気になる料理たち
------------------------------------------------------------------------
私は、プリモ・ピアットにきしめんのような「タリアッテッレ」を、セコンドに
鶏肉のローストを頼みました。そうしたら! ひき肉とトマトソースで作った、
スーゴ(肉汁)がかかったタリアッテッレは、パルミジャーノ・チーズをたっぷ
りかけて、満足のおいしさ。初めてなのに、懐かしい味です。

驚いたのは、セコンドの鶏肉のロースト。ほぼ、半身(はんみ)の鶏肉がローズ
マリーなどのハーブをお腹につめて、ドーンと運ばれてきました。周りはカリッ
と香ばしく、ナイフを入れると透明な肉汁が、湯気と一緒に流れてきます。

それまでに入ったトラットリアでは、「鶏肉のロースト」といえば、薄く叩いた
胸肉がぺラッと出てくるだけでした。だから、半身とはいえ、クリスマス用のロー
ストチキンの形をした肉が出てきたのにはびっくり!

味付けは塩コショウだけ。そこへレモンをしぼって、熱々を食べる。フランス料
理のようにソースが凝っているとか、複雑な味を楽しむものではありません。け
れど素材のおいしさをいかして、肉の塊を上手に焼き上げるのは、実は難しそう
です。

▼ルッコラとリコッタチーズのラビオリ。
 スーゴのソースとパルミジャーノチーズがかかっています。

▼鶏肉のロースト。これは小さいほうの半身です。

料理が出てくるのは、何の飾りもない真っ白なお皿。でも、どんなに忙しくても、
縁に触れるときちんと温められています。余分なものがなくて、とてもシンプル。
だから、食べると元気になる気がするのかもしれません。

                                                    text by yuzumomo 
----------------------------------------------------------------------○


HOMEにもどる
TOPにもどる 感想を書く 編集部にメールを書く

イタリアde育児考
 ◆「トラットリアに行こう!」その2


■家族が歓迎される、うれしさ。
------------------------------------------------------------------------
さて「マリオ」に通う楽しみは、料理はもちろんですが、働く人たちに会うこと
です。

入ってすぐ左手、レジを仕切るファビオはお店の三代目。体格がよく強面(こわ
おもて)の彼ですが、実は大の子ども好き。2回目に行ったときには、わざわざ
ノートを持ってきて、「子どもの名前はなんていうの?」と尋ねるほど。息子の
名前は「雅季(まさすえ)」というのですが、イタリア風に「マサよ」と答える
と、「MASA」と書き留めてくれました。

▼三代目、ファビオ

とはいえ調子のよいイタリア人も多いので、「まさか覚えてはいないだろう」と
思ったのですが。3回目に行くと、入った途端に、

「オオ、マサ!! よく来たね〜!!」と、カウンターの向うから飛んできて、
ベビーカーの息子の前にしゃがみこむではないですか。ファビオは3秒ほど息子
の顔を黙ってみつめたあと、感に堪えぬように、

「ベッロ(可愛い)……」

いや、息子は普通の日本の赤ちゃんです。でも、ヨーロッパの赤ちゃんは小顔な
ので、丸顔の日本人の子どもは、特別に可愛く見えるらしいのです。そのあとは
元気なカロリーナがやってきて、

「うーん、このぷくぷくしたほっぺ、料理にして食べちゃうぞ〜」

と、なぜか歯をくいしばって、挨拶。席に案内してくれるのは、戸田恵子似のク
リスティーナ。私たちが座るのは、たいていクリスティーナが担当するテーブル
なので、彼女がいろいろ助けてくれます。

▼大好きなクリスティーナ

▼いつも口笛で息子をあやしてくれる、愛称「ジジ」

▼ファビオとジジ
 
▼戸田恵子公式サイト(グランパパ・プロダクション)
 http://www.granpapa.com/production/toda/
------------------------------------------------------------------------
■マリオ、その温かい食事のひみつ。
------------------------------------------------------------------------
夫と一緒に出かけたある日。子どもがぐずって、ひとりは食べずにあやさなくて
はいけなかったことがありました。クリスティーナは1枚お皿を持ってきて、
「冷めないようにね」と、料理にふたをしてくれました。

何ということはない親切が、慣れない町に来たばかりの私たちには、どれほど嬉
しかったでしょう! その後も、子どもの機嫌が悪そうだと、「料理を持ってく
るのは、一皿ずつにする?」などと、気を遣ってくれました。

いやはや。本当に目が回るほど忙しいお店なんです。多いときは、お店の外に20
人近い人が待っているほど。なかには旅行者も多いから、ファビオも

「ウエィト・ファオ・ミニッツ( Wait for a minute=ちょっと待って)!」

などと、英語を駆使してお客をさばいています。それなのに自然な親切さ、温か
さがお店で働く人全員にあふれています。仕事を楽しんでいるというか、余裕が
あるんですね。
------------------------------------------------------------------------
■「スローフード」の本質
------------------------------------------------------------------------
自分が働いていたときのことを思い出してみます。余裕があればともかく、忙し
いときに、ちょっとした親切をすることができただろうか? 恥ずかしながら、
「邪魔しないで!」と言わんばかりに、毛を逆立てていたと思います。

どうして「マリオ」の人たちは、自然に優しくできるのかな。そのあたりも「マ
リオ」に通いたくなる秘密のような気がします。

お店のにぎやかさにぐずり気味だった息子も、最近ではすっかり慣れ、眠ってし
まうようになりました。おかげで私も落ち着いて料理を味わえます。「マリオ」
では、みんな、アツアツの料理を食べ終ると、長居はせずにさっさと席を立ち、
お店を出て行きます。でも、焦らされている感じはまったくないし、お店の人も
急かしません。むしろ

「ゆっくり食べてね」

と、気遣ってくれるのです。

ここ数年「スローフード」という言葉を目にするようになりました。日本にいる
ときは、何となく「ゆっくり食事をすること」と思ってましたが、「マリオ」へ
通うようになってイメージがクリアになりました。

スローフードって、ただ時間をかけることじゃなくて食事を出す人、食べる人同
士の関係の問題なのでしょうね。生きていくうえで大切な食事の時間を、丁寧に
過ごすこと。良い素材をシンプルに料理し、楽しく食卓に運ぶこと。食べる側は
感謝しつつ、おいしくたいらげること。

そんなふうに思うと、離乳食が始まった息子と過ごす食事の時間の質を、あらた
めて考えたくなりました。

私は4月から仕事に戻るので、手をかけた料理をいつも出すのは難しいかもしれ
ません。夫は仕事でイタリアに残るので、一人で乳児の世話をするのですから、
心配もいっぱいです。だからこそ食事の時間が楽しいものになるよう、心がけよ
う。「マリオ」に通ううちに、そんなふうに考えるようになりました。
------------------------------------------------------------------------
■そして、人生を愛し、楽しむこと。
------------------------------------------------------------------------
そういえば、「マリオ」を紹介してくれたミルキイさんが、こんなことも言って
いました。

「イタリアに行くと、自然にまわりの人が親切にしてくれる。重い荷物を運んで
 いると、ちょっと手伝ってくれるとか、ささやかなことなんだけど嬉しくなる。
 そうすると日本に帰ってからしばらくは、自分も誰かに親切にしよう、って思
 うんだよね。それって、すごいことじゃない?」

もちろんイタリアにも問題はたくさんあります。長い間住んでいる人と話してい
ると、差別もあるし、非能率的なシステムも多いとわかります。それでも町の人
たちの明るさや親切さには、見習うことも多いと思うのです。人生を愛し、楽し
んでいる雰囲気。帰るまでに、その前向きな明るさを身につけられたらな、と思
うのでした。
------------------------------------------------------------------------
■フィレンツェ街角通信
 イタリアならでは?の三つ子用のベビーカーをキャッチ!見てみてね。
------------------------------------------------------------------------
■お詫び
前号で、紹介した「マリオ日替わりのメニュー」がスタッフの顔写真になって
いました。ごめんなさい!あらためておいしい料理の数々をご紹介します。

▼フィレンツェの味覚といえば、これ。「ビステッカ・フィオレンティーナ」。
 牛肉のステーキで、写真は二人前です。
 
▼フィレンツェ名物の臓物料理「トリッパ」。トマト味で、さっぱりしています。
 
------------------------------------------------------------------------
さて、yuzumomoさんは本日2月28日でイタリアでの滞在を終え、日本に無事帰国
の途についています。あっという間の半年でしたね!

今後の連載については彼女と相談中。お伝えしたいお話は、た〜くさんあるので、
イタリアの生活を通じて得た知恵を皆さんにお届けできれば!と思っています

                                                    text by yuzumomo 
----------------------------------------------------------------------○

 

当ページに関するご意見・ご感想は、<wahaha@chieichiba.net>まで

Copyright 2000-2002, 子育てワハハ
All rights reserved