波照間(はてるま)島で過ごした夏休み編
 ◆第1話「ほんとうの青い海がみたい」
 第2話「出会いが旅をほんものにしてくれる」

旅の思い出と心の記憶 

 

波照間(はてるま)島で過ごした夏休み編 
 ◆
第1話「ほんとうの青い海がみたい」
■これがほんとのコバルトブルーの海
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テレビや写真ではわからない、感じられない「ほんもの」が見たい、触れたい。
旅に出るときはいつもそう。子どもが生まれてからは、特に強く感じるようにな
りました。

波照間島は以前に何度か訪れたこともあり、なじみの民宿もあるし、なんたって、
あの光り輝く青い海が、これこそ「海は青いな、広いな、大きな」って教えてく
れる島なんです。2歳前の娘が、どのように受け取るのか、その反応も楽しみに、
夏休みを島で過ごすことにしました。

▼どこまでも広がる海をふたり占め  


ここは、石垣島から高速船で1時間、南海の外洋に浮かぶ、人口600人弱、サ
トウキビ畑が広がる小さな島です。島には信号機が一つもないし、特に観光する
ところもありません。数年前に訪れたときは、島でお金を払って食事ができる食
堂のようなものは1軒だけでしたが、今は3軒になっていて、びっくりでした。

▼波照間島あれこれHP
 http://www.kt.rim.or.jp/~yami/haterumamenu.html

島ではまず最初に蚊の襲撃にあいました。予想はしていたけれど、これがすごい。
しかも子どもはてきめんに狙われる。でも不思議と海に入れば、刺されたあとが
すっとひいていく。そしてあれだけ汗をかいているのに、ぜんぜんあせもになら
ない――潮の力はすごいものです。

■ゆったりと島の時間で過ごす毎日
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島での毎日は、起きるとまず朝のお散歩から。朝日に照らされるブーゲンビリア
や、風でざわざわ揺れるサトウキビ畑を観察しながら、集落にある共同売店で、
トマト&りんごジュースを買うのが日課になりました。

朝ごはんを食べたら海へ。泳ぐというよりは、水遊び。波と追いかけっこをした
り、波でひいていく貝殻を不思議そうに眺めたり…。そして大きな大きな白い海
岸、贅沢なお砂場で砂まみれ。お昼ごはんを食べたらお昼寝をして、また夕方か
ら海へ行ったり、島中の至る所にいるヤギ(それは道端につながれていたり、放
浪していたり)を見たり。

▼ヤギさんとご対面  

晩ごはんのあとは、民宿のご主人やほかのお客さんたちと気ままにおしゃべりし
ます。また、雲が出ていない夜には、真っ暗闇のサトウキビ畑の真ん中で、星を
眺めていました。波照間の唯一の観光施設といえば、星空観測タワーです。ここ
は北回帰線のすぐ近くに位置するので、偏西風帯を外れ、星がまたたくことはあ
りません。緯度が低いため、天空に星が浮かんでいるようで、手でつかめそうな
くらい。星の観測にはぴったりの島なのです。私たちが訪ねたときは、ちょうど
新月だったので、絶好の「お星さま観測日和」でした。

■地上90センチの世界を一緒に楽しんで
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こうして毎日を過ごすうちに、娘は朝いつものように海へ出かけると、海が見え
てくるなり「ウォー」と指差して雄たけびをあげ、道端のヤモリや蟻を追いかけ、
宿の庭になるパッションフルーツを(これがとってもすっぱいのだけれど)おい
しそうにほおばり、大人びた顔つきで星空を眺めてる。自分の身体全体で毎日を
感じて、すべてに興味しんしん。私自身も「何して遊ぶ」とか「何かをしてあげ
なくては」なんてことをぜんぜん考えることはない…。

▼日本最南端でチーズ!  

普段から「子どもに何かしてあげる」「買ってあげる」という感覚がとても嫌い。
何だか押しつけがましいし、自己犠牲的な感じがするから。でも知らず知らずの
うちに、「こうしてあげているのだから」って、イライラしてる自分がいるんで
すよね。

もっと普通に、子どもと一緒だからこそできる生活、地上90センチの世界を楽し
まないと損だな…。もちろん旅という日常から離れた環境にいて、気持ちもウキ
ウキしているから思えるってこともあるのだけれど、コンクリートに囲まれた東
京に暮らしても、そんな気持ちを忘れないようにしなくては。だって子どもだっ
てすぐに自分だけの世界を築いていくだろうし、こうして一緒に過ごせる時間も
あっという間に終わってしまうはずだから…。

そしてちょうど安定期に入ったばかりのおなかにいる赤ちゃんは、ボーっと海を
眺める私のおなかをポコポコと蹴り始めました。子どもふたりに囲まれた生活っ
て、まだまだ想像はつかないけれど、今の2倍、いやそれ以上に楽しんで、せっ
かくの子育て時間を過ごそうと、青い海を前にいい気持ち!来年、二人の子ど
もを前に髪をふり乱し、目がつりあがったときには、このときのことを思い出さ
なくては…。

(第2話につづく)
                                                    text by yako 
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波照間(はてるま)島で過ごした夏休み編 
 
◆第2話「出会いが旅をほんものにしてくれる」
■レオト君とのであい
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台風が近づいているという風の強い日の午後、早めに海から上がって、海岸沿い
のあずまやで帰り支度をしていると、A型ベビーカーの横に子どもを寝かせて、
着替えをさせているおかあさんがいました。ベビーカーに乗るには大きなお子さ
んだなと思ったのですが、ベビーカーを砂浜にめり込ませながら、立ち去ろうと
したので、「一緒に帰りませんか?」と声をかけました。

島には8軒の民宿がありますが、どこも島の中央部にあるので、海岸からだと坂
道を登って20分以上かかります。私たちは宿の軽トラを借りていたので、荷台に
ベビーカーごと乗せて、彼女の民宿まで行くことになりました。

レオト君は5歳、歩くことやお話することができないハンディキャプを持ってい
ました。しかも名古屋からおかあさんとの二人旅。民宿の部屋には、酸素のボ
ンベや大きな荷物がズラリ。でもおかあさんはいたって元気で、あっけらかんと
してて、「私シュノーケリングもしようと思って、持って来たんですよ」なんて、
大量の荷物の中から足ヒレや水中めがねを見せてくれました。

▼レオト君とおかあさん  

うちも妊婦で子連れ、こんな酷暑の南海の孤島に来ることに、「大丈夫なの?」
って声も多かったのですが、そんなの比じゃない。彼女とはレオト君のハンディ
キャップのことについては何も話さなかったし、もちろんいろんな苦労もあるん
だろうけど、なんだか目からウロコが落ちました。すっごく自然体なんです。子
ども抜きにやりたいからやる、しかも子どもも一緒に楽しんじゃえ、っていう姿
勢が。

それからランチを食べたり、海へ行ったりして一緒に遊びました。台風からの強
風のせいで、石垣島との高速船は1日半ストップし、島に残された滞在客は、お
昼時になると3軒の食堂を行ったり来たり、まさしく顔なじみ状態。レオト君は
やっぱり目立つ存在なのか、「元気にしてる?」っていたるところで声がかかり
ます。なんかいきいきとしたその親子の姿がみんなに元気を振りまいているよう。
台風が遠のいた翌朝、彼女たちは元気に島を去っていきました。

■元気をほんとにありがとう
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波照間から帰ってくると、彼女からはがきが届きました。「はてるまでいろんな
人と出会い、ゆったりとした時間の中に身をゆだねた数日間は私の中で宝物にな
りました。特にお二人には元気をわけてもらった気がします…」

いえいえ、元気をもらったのはこっちの方です。とお返事すると、こんなメール
がやってきました。「昨日は郡上の徹夜踊りに向けて、浴衣の着付けを習いまし
た。う〜ん、踊りに行くのが楽しみ〜」

やっぱりパワーのある人は違う!今でも彼女の笑顔と波照間の照りつける太陽が、
オーバーラップして写ります。

■旅をほんものにしてくれるもの
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「旅をしていていつも思うのは、その土地の風景を自分のものにするために、そ
こで誰かと出合わなければならないということだ。もしそうでなければ、風景は
映画のスクリーンをただ眺めているように、決して自分自身と本当の言葉を交わ
さない。(中略)誰かと出合い、その人間を好きになったとき、風景は初めて広
がりと深さをもってくる」(安里勇 CD  海人 ライナーノート「身近な自然 
遠い自然」星野道夫著より)

この言葉は、知人だったアラスカ在住写真家・故星野道夫さんの絶筆となった文
章の中にあります。そうなんだよね。今回もレオト君をはじめ、いろんな出会
いがありました。

特に民宿「いしの荘」の親父さん、これがもう見るからに沖縄の海人(うみんち
ゅ・漁師)って感じで、へなちょこのダイバーたちには「おまえら帰れ」なんて
どなってるんだけど、ほんと子どもみたいにまっすぐな人なんです。しかも八重
山方言で、時々言っていることがよくわからないのが、まだ日本語がたどたどし
い娘との会話にぴったりなのか、娘をとびっきり可愛がってくれて、「アイス買
いに行こう」って甘い声で迫ってくる。

▼民宿「いしの荘」の親父さんと奥さんのさちさんと一緒に  

はじめてひとりでソフトクリームを平らげた娘のなんて誇らしげなこと。顔から
洋服からすべてベタベタで、靴には蟻がたかって、大変なことになっていたけど、
よっぽどうれしかったのか、その親父さんの写真を見るたびに「アイスおじさん
!」と叫んでいます。彼女にとっては、波照間といえば、強烈に甘美なアイスの
世界が広がっているようです。これもまたいいか…。

「自然も人も動物もみんな友達。一緒に楽しい花を咲かせましょう」という思い
で「朋花」(ともか)と2歳になる娘には名付けました。そして12月には新たな
メンバーが加わって、さてこれからどんな旅が一緒にできるのでしょう…。

(次の旅に続く…さていつになることやら)
                                                    text by yako 
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◆旅の思い出と心の記憶
■ 旅の記憶が芽生える頃
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2月になり、テレビの天気予報などで、雪景色が映るたびに、「雪へ行きたい」
(注釈:雪のある所へ行って、遊びたい)と3歳半になる娘が、しきりに言うよ
うになりました。

うちは夫婦とも、学生時代より熱気球をやっている所以で、子どもたちは、首が
据わるや、あちこちの気球大会に参加。そして親である私たちの気の向くまま、
日本最南端の波照間島から極寒の北海道と旅してきました。

そして今回は、娘から「旅へ行きたい」と言われたのです。これはちょっと感動
モノでした。子どもから旅の誘いを受けるなんて…。
 
というわけで、ちょうど2月末に、新潟県小千谷で開催された気球大会&雪原ま
つりへ参加。「行きたい」という思いが生まれ、「実際に行く」、そして楽しか
った「思い出話ができる」。3歳を過ぎて、そういう旅の記憶回路が芽生えてき
たような気がします。
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■言葉にならない記憶もある
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うちにある室内用のジャングルジムは、その上にタオルケットを被せて、今や立
派なテントとなっています。昨年夏に1週間、世界遺産・白神山地(秋田・青森
県)でキャンプしたのが、娘には、かなり心に残っているのか、すっかりこれが
「マイ・テント」なのです。中には大切なものを置いたり、なんと狭いジャング
ルジムの中で寝てしまったり。
   
子どもは、胎内にいた頃のことも覚えている、と聞きますが、いったい子どもの
記憶って、どうなっているんでしょうか。

子どもが自分の言葉で表すことができてはじめて、親である私たちは、「記憶に
残っているんだな」と感じます。けれど、言葉に表す前の出来事も、きっと子ど
もの頭の中にはインプットされて、直接思い出さないのかもしれないけれど、何
らかの形で残っているに違いない、と思うのです。
 
ふと、「なんだかこの風景知っている」とか「なんだか落ち着く空間だな」って、
思うことあるでしょ?それって、幼い頃の、何らかの記憶と結びついているんじ
ゃないかな…なんて。

そして、そういう言葉にならない旅の記憶の積み重ねがあるからこそ、言葉で表
現できる段階になって、「行きたい」気持ちが生まれてくるのでは、なんて勝手
に推測しています。
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■遺伝子、もしくは環境のなせる技?
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自分を振り返ってみると、鮮明に覚えているいくつかの旅の記憶があります。

その中でもいちばん心に残っているのは、小学校の頃。このときは福岡に住んで
いたのですが、夏休みに大阪の母方の実家へ帰るとき、母と妹と3人で、新幹線
や飛行機を使わず、山陰本線経由で10時間以上かけて、列車で旅をしました。

途中下車して、「ホームに手形を残すぞ」と手のひらをプラットホームに押し付
けたときのひんやり感、駅弁の蓋を開けたときの、ごはんのにおい…今でもしっ
かり覚えています。

そんな母の影響か、その後すっかり列車好きになり、乗り物好きが高じて、気球
乗りにもなってしまったのかも。

これは遺伝子なのか、旅の記憶、もしくはそういう環境を私に設定してくれた親
の影響なのか…。そして今、親となった自分も、同じようなことをしているので
した。
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■毎日の暮らしの中で旅は続く
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「子どもの頃に見た風景がずっと心の中に残ることがある。いつか大人になり、
さまざまな人生の岐路に立った時、人の言葉でなく、いつか見た風景に励まされ
たり勇気を与えられたりすることがきっとあるような気がする」
(『旅をする木』 星野道夫著より)

もちろんこれは、旅だけでなく、毎日の生活の中でも、同じことが言えるんじゃ
ないかな…。桜吹雪を追いかけてみたり、街路樹の若葉の芽吹くにおい、公園の
池で見つけた、かえるのたまごのにゅるにゅる感。

五感で感じたことは、決して忘れることなく、心に残り、なにかのきっかけで、
ふと思い出したり、和んだり…。そしてきっとそこから想像力が生まれ、それは、
人の気持ちや人の痛みを感じることができる心にも、つながっていくんだと思い
ます。

だからまだ記憶を言葉にできない、1歳4ヶ月の下の娘にだって、ちゃんと一人の
人間として接し、ほんものを感じてほしい。

さてゴールデンウィーク、日常を抜け出したそのとき、いつもとは違う子どもた
ちの姿、そこに新しい発見があるかも…。もちろん、そういう子どもたちの成長
を、ちゃんと感じることができる自分でありたい。あなたにとって、今回の旅は、
どんな気づきがあるでしょうか…?ぜひワハハにも体験を寄せてくださいね。

                                                    text by yako 
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